発熱性好中球減少症(FN)の定義
抗癌剤の副作用死亡原因のNo1がFN。抗癌剤治療中の発熱は、すべてFNを疑う。
抗癌剤投与後10~14日で好中球は最小となる。
ASCOのガイドラインでは、発熱から治療開始まで60分とするよう推奨。
発熱の基準はガイドラインによって異なります。
IDSA:口腔温38.3℃、または38℃以上が1時間以上1)
日本臨床腫瘍学会:腋窩温が37.5℃、もしくは口腔温38℃以上2)
重症度判定
MASCC score
MASCC score3)はhigh riskであれば入院、low riskであれば外来といったマネジメントに適しています。
以下の項目の合計を計算し、21点未満をhigh risk、21点以上をlow riskと分類します。
項目 | 点数 |
臨床症状(下記の※印3項の内1項を選択) ※無症状 ※軽度の症状 ※中等度の症状 | 5 5 3 |
低血圧なし | 5 |
慢性閉塞性肺疾患なし | 4 |
固形腫瘍/真菌感染の既往のない血液疾患 | 4 |
脱水なし | 3 |
外来管理中に発熱した患者 | 3 |
60歳未満(16歳未満には適用しない) | 2 |
IDSAガイドライン
IDSAガイドラインのhigh riskとlow risk は、MASCC scoreに加えて、 好中球減少の程度と期間についても言及しています。
好中球の値が小さく、期間が長いほどリスクは高くなります。
High risk | 原疾患:AML, MDS, 血幹細胞移植etc 好中球:100/μL未満が1週間以上 MASCC score:20点以下 治療:緑膿菌への活性があるCFPM 2g 8h, PIPC/TAZ 4.5g 6h, MEPM 1g 8h etc |
Low risk | 原疾患:固形腫瘍etc 好中球:500/μL未満が1週間以内 MASCC score:21点以上 治療:CPFX 400mg 3回/日+CVA/AMPC 250mg 1回2錠 3回/日 |
問題となる微生物
FNでは好気性の細菌とごく一部の真菌が多い
①グラム陰性桿菌(ほとんどは大腸菌、Klebsiella、緑膿菌など)
②グラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、αレンサ球菌)
③真菌(Candida, Aspergillus)
原虫、ウイルスなどは問題になりにくい
バンコマイシン併用を考慮する8つのケース
基本的にFNの治療対象は、好気性グラム陰性桿菌です。MRSAなどのグラム陽性球菌は検出・同定されてから治療すればよいとされています。
しかし、初期からMRSAが強く疑われるケースでは、バンコマイシンを初めから併用してもよいとされています。この場合、血液培養が48時間陰性であればバンコマイシン投与の中止を検討します。
※血液培養は、全陽性中の85%くらいが24時間以内、89%が48時間以内に陽性になるといわれています4)。
バンコマイシン併用を想定する8つのケースをまとめてみました5)。
バンコマイシン併用を想定する8つのケース |
①血行動態不安定、重症敗血症 ②画像的に肺炎が確認されている ③血液培養でグラム陽性菌が検出されている ④カテーテル関連感染症が疑われる ⑤皮膚軟部組織感染症 ⑥MRSA、腸球菌、肺炎球菌の保菌者 ⑦フルオロキノロンが予防投与され重度粘膜障害があり、セフタジジムを用いる場合 ⑧30日以内にβラクタム系抗菌薬の使用歴がある |
抗真菌薬の併用を考慮するケース
血管内カテーテル感染や腸管粘膜の破たんなどバリア破綻があれば侵襲性カンジダ症を考慮して抗真菌薬を併用します6)。
好中球数が少なく、好中球減少期間が長いほど侵襲性糸状菌感染症のリスクとなります。
真菌リスク評価ツールには、D-indexがあります7)。
D-index<5500で真菌リスクの陰性的中率は97.4%です。
例えば好中球数100/μLが14日継続すれば、D-indexは5600となり抗真菌薬カバーが検討されます。
液性免疫不全で罹患しやすい細菌の覚え方
液性免疫不全では莢膜を有する菌に罹患しやすくなります。英語での覚え方が秀逸です。
Some Nasty Killers Have Some Capsule Protection
ひどい殺し屋の中には莢膜による防御を持つやつがいる
発熱性好中球減少症の感染部位 覚え方
基本的には、不明熱の形をとり、感染源が不明である場合が多いです。
眼、肛門なども侵入門戸になりうるため、忘れずに丁寧に診察する必要があります。
レジデントのための感染症診療マニュアルから青木眞先生のゴロを紹介します。
Aあ:Anus(肛門)
I い:Indwelling catheter(血管カテーテル)
Uう:Upper GI(上部消化管)
Eえ:Eye(眼)
Oお:Oral(口腔内)
Sず:Skin(皮膚)、Sinus(副鼻腔炎)
参考文献
1) Freifeld AG, et al : Clinical Practice Guideline for the Use of Antimicrobial Agents in Neutropenic Patients with Cancer: 2010 Update by the Infectious diseases society of america. Clin Infect Dis, 52: e56-93, 2011
2)「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改訂版第2版」(日本臨床腫瘍学会/編), 南江堂, 2017
5) Shelburne SA 3rd, et al: Development and validation of a clinical model to predict the presence of β-lactam resistance in viridans group streptococci causing bacteremia in neutropenic cancer patients. Clin Infect Dis, 59: 223-230, 2014
6) 「がん患者の診かた・接し方」 レジデントノート増刊, 羊土社, 2020
7) Kimura S, et al: Retrospective evaluation of the area over the neutrophil curve index to predict early infec tion in hematopoietic stem cell transplantation recipients. Biol Blood Marrow Transplant, 16: 1355-1361, 2010
おすすめ参考書・教科書
レジデントのための感染症診療マニュアル
医学生時代にはまともな教育がされてないにもかかわらず、実臨床では重要な感染症。
イヤーノート程の分厚さがあり、抵抗感があるかもしれませんが、マストバイアイテムです!
初学者は第一章「感染症診療の基本原則」だけでも読むことをおすすめします。
肺炎の抗菌薬治療をはじめたけど、あれっ?治療効果はどうやって見ればいいの?といった医学生の素朴な疑問にもしっかり答えて下さっています。
「解熱とCRP低下でOKでしょ!」と思ってる方は一読の価値あり。
2020年11月に第4版が出ました。
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