市中肺炎の臨床経過

呼吸器

やぶ医者認定されそうになった前医を名医にした1例

これは初期研修医として新患外来で経験した症例です。中年女性が発熱、咳嗽を主訴に外来を受診されました(※コロナ流行前です)。その女性は診察室に入ってくるなり「A クリニックから処方してもらった抗生剤を飲んだんですが、熱が下がりません。Aクリニックの先生は胸の音を聞いただけで、薬を処方されました。診断が間違っていたんじゃないですか?」と少し不満げな様子でした。 丁寧に問診をした後に聴診してみると、右背側下肺野にcoarse cracklesが聞こえました。胸部レントゲンで右下肺野に陰影を認め、病歴、身体所見、検査結果から肺炎と診断しました。画像や採血結果を用いて肺炎の説明をし、 A クリニックから処方されていた抗菌薬で問題がないと判断した私は、「個人差はありますが、一般的な肺炎の場合は抗生剤を飲んだその日に熱が下がることは少なく、3日目頃に下がります。明日か明後日には熱が下がってくると思いますが、咳や倦怠感はまだしばらく続きます。Aクリニックから出されている抗生剤をそのまま飲み続けてくださいね」と説明し、数日後の外来を予約して帰宅としました。その数日後、来院した患者さんは、「先生の仰った通りにAクリニックから処方された抗生剤を飲み続けたら、3日目に熱が下がりました。何で熱が下がる日がわかったんですか?」と嬉しそうに説明してくださいました。

この症例のポイントは、抗菌薬を内服すればすぐに熱が下がると思い込む患者さんに前医が肺炎の臨床経過を説明しなかった事です。私は肺炎の診断と説明をし、前医の判断が正しかったと伝えただけですが、前医も私もその患者さんからの評価が高くなりました。私が悪徳医師であれば、患者さんのクレームに擦り寄って、「Aクリニックはレントゲンも撮ってくれないなんてひどいですね。レントゲンを撮って新しいお薬もお出ししましょう」とAクリニックの診断があたかも間違ってたように装うこともできるでしょう。しかし純粋な(?)私は前医の見立ては間違ってないことを説明し、処方された薬をそのまま飲み続ければ、熱は下がり肺炎も良くなる可能性が高いでしょうと説明しました。患者さんへの説明が足りないと、 正しい診断や治療方針も関わらず、患者さんからヤブ医者認定されることもあるのだなと実感した1例です。この症例は十分な時間があった初期研修医だったからこそ説明に時間を割くことが出来ました。忙しい外来では、コスパの高い診察が求められ、結論と処方だけになるケースも少なくないと思います。限られた時間の中で、患者さんに誤解を招かないような説明を心がけなければいけないな、と感じた思い出深い経験となりました。

市中肺炎の臨床経過

参考文献
1)Marrie TJ, et al. Resolution of symptoms in patients with community-acquired pneumonia treated on an ambulatory basis. J Infect 2004; 49:302.
2)Metlay JP, et al. Time course of symptom resolution in patients with community-acquired pneumonia. Respir Med 1998; 92:1137.
3)Fine MJ, et al. Processes and outcomes of care for patients with community-acquired pneumonia: results from the Pneumonia Patient Outcomes Research Team (PORT) cohort study. Arch Intern Med 1999; 159:970.

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