五苓散は、はきけや腹痛を伴う下痢に使用される漢方薬である。近年、脳外科領域で頭部外傷などに伴って生じる慢性硬膜下血腫に対する五苓散の報告が散見される1) etc。慢性硬膜下血腫の西洋学的治療には、穿頭ドレナージの他、浸透圧利尿薬、副腎皮質ステロイドがあるが、東洋医学的治療として五苓散の使用が挙げられる。
五苓散の作用機序として、アクアポリン(AQP)類の機能を抑制することにより、抗浮腫作用、利尿作用および抗炎症作用を示すと考えられている。
脳浮腫の発生には脳細胞に発現するアクアポリン4(AQP4)という水の輸送体タンパク質が関与している。このAQP4の作用により脳細胞内に水が入り込んで脳浮腫が引き起こされてしまう。五苓散はこの水の輸送に関わるアクアポリン4(AQP4)を遮断することで、抗浮腫作用を呈する。
腎臓においては、尿濃縮に関わるアクアポリン3(AQP3)を遮断することで、水の体外排出を促進し利尿作用を呈し、血腫周辺においては、サイトカイン産生亢進に関わるアストロサイトのアクアポリン4(AQP4)を抑制し抗炎症作用を呈すると考えられている。
また、慢性硬膜下血腫術後再発の原因として、血腫に血管内皮細胞遊走因子が存在しているために発生する脆弱な新生血管の破たんが考えられている2). 五苓散は AQP1 の発現減少を介して、血管新生を抑制する可能性が考えられており、慢性硬膜下血腫の再発率低下作用との関係が示唆されている。
未だに十分に解明されていない機序もあるが、五苓散はアクアポリンを遮断することで抗浮腫、抗利尿、抗炎症反応、血管新生抑制作用をもつと考えられている。
参考文献
ファルマシア・54巻・2号・139頁「五苓散による慢性硬膜下血腫治療の薬理学的合理性」
1) 木元博史,漢方の臨床,48, 221-228(2001)
2) Kalamatianos T, et al, J Neurosurg. 2013 Feb;118(2):353-7
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