基準値:11~33 IU/L
検査目的:肝細胞、筋肉、赤血球からの逸脱酵素であり、これらの障害による疾患の検出、程度、経過把握の重要な指標
ASTは主として肝細胞内、筋細胞内、赤血球内に存在するアミノ酸を代謝する酵素で、これらの細胞の壊死、破壊によって血中に逸脱する。このため、血中 AST 活性の上昇は、肝細胞、筋肉、赤血球の壊死、破壊の程度を反映する。しかし厳密には細胞内の含量や形質膜透過性の影響を受ける。
肝細胞の壊死、破壊の原因として、
(1)肝炎(肝炎ウィルス、その他のウィルス、薬物、アルコール、自己免疫、NASH)
(2)循環障害(虚血、うっ血、ショック)
(3)貯留(脂肪肝、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アミロイドーシスなど)
(4)浸潤(白血病、悪性リンパ腫など)
(5)感染(敗血症、肝膿瘍など)
(6)感冒など
ALT がほぼ肝由来であるのに対して、 AST は赤血球や筋肉からの逸脱もある。AST が肝機能検査であると思い込んでしまうと、急性心筋梗塞など他疾患での上昇を見逃す恐れもあり注意を要する。
AST値 | 考えられる病態・疾患 | |
上昇 | 1000 IU/L以上 | [高頻度]ウイルス性急性肝炎(極期), ウイルス性慢性肝炎の急性増悪 [可能性]劇症肝炎, 薬物性肝障害, 虚血性肝炎(ピーク時) |
500~1000 IU/L | [高頻度]ウイルス性急性肝炎(極期), ウイルス性慢性肝炎の急性増悪 [可能性]急性アルコール性肝炎, 薬物性肝障害, 肝炎ウイルス以外のウイルスによる急性肝炎, 総胆管結石, 心筋梗塞 |
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100~500 IU/L | [高頻度]ウイルス性慢性肝炎 [可能性]自己免疫性肝炎, 急性アルコール性肝炎, 薬物性肝障害, 脂肪肝, 肝炎ウイルス以外のウイルスによる急性肝炎, 閉塞性黄疸, 原発性胆汁性肝硬変, 心筋梗塞, 筋肉疾患, 溶血性疾患, 酵素結合性免疫グロブリンの結合した AST |
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基準値上限~100 IU/L | [高頻度]ウイルス性慢性肝炎, 肝硬変, 肝細胞癌, 脂肪肝 [可能性]自己免疫性肝炎, 薬物性肝障害, 閉塞性黄疸, 酵素結合性免疫グロブリンの結合した AST |
実臨床での考え方
AST/ALT, ALP/γGTP, ビリルビンの3つの組み合わせから大まかに推測する。
びまん性肝細胞障害 | 腫瘤性病変 | 浸潤性病変 | 肝内胆管障害, 胆汁うっ滞 | 肝外胆管閉塞 | |
AST/ALT | ↑~↑↑ | →または↑ | →または↑ | →または↑ | →または↑ |
ALP/γGTP | ↑ | ↑↑ | ↑↑ | ↑↑ | ↑↑ |
直接ビリルビン | ↑~↑↑ | → | → | ↑↑ | ↑↑ |
鑑別 | 急性ウイルス性肝炎(A, B, C, D, E), 伝染性単核球症, 急性アルコール性肝炎, 脂肪肝, ショック肝, うっ血肝, 門脈閉塞, Budd-Chiari症候群, 肝細胞型薬剤性肝障害 | 肝細胞癌, 胆管癌, 転移性肝腫瘍 | サルコイドーシス, 結核, 非定型抗酸菌症, 薬物性肝障害 | 慢性肝炎, 肝硬変の一部, 胆汁うっ滞型薬剤性肝障害, 原発性胆汁性肝硬変 | 胆管炎, 総胆管結石症, 肝外胆管閉塞, 胆管癌, 術後胆管狭窄, カロリ病, 硬化性胆管炎 |
参考文献
異常値の出るメカニズム
臨床検査データ
診断に自信がつく検査値の読み方教えます
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